小説『ビアンカ・オーバースタディ』を読んだ感想


ビアンカ・オーバースタディ (角川文庫)

成田空港で飛行機に乗り遅れて次の便に乗るまでに6時間もあったので、何か本を買おうと思って第3ターミナル内にある「改造社書店」に入り、陳列棚に並ぶ小説本を何となく見ていると、いとうのいぢっぽい絵柄の可愛らしい少女が表紙に描かれている本が目にとまった。

本を手に取って確認すると、いとうのいぢで間違いなかった。

しかし、いとうのいぢの絵柄は好きだけれど、ただそれだけの理由で小説本を買うことはない。

作者の名前を確認すると、筒井康隆だった。

え!筒井康隆の本で、いとうのいぢ!?

強烈な購買意欲が湧き上がり、内容をほとんど確認せず、本を買った。

成田空港第3ターミナルのソファーに座り、黙々と読み始める。

主人公はビアンカ北町という超絶美少女の高校生。

学校一の美少女が生物学室でウニの生殖の研究のために、ウニの精子と卵子を受精させる実験をしている、というあたりまでは、この世のどこかにはもしかしたらいるかもしれない、と思いながら読んでいた。

しかし、この超絶美少女が、ウニの受精を見るだけでは我慢できなくなり、人間の精子が卵子に受精するところを見てみたい、だから、いつも生物学室の前で読書しながら自分を見ている学校一可愛いやつと思っている男の子・塩崎哲也(しおざきてつや)に頼んで精子をもらおう、という考えを持ち、本当に自らの手を使って精子を採取するような話が始まると、「あれ?買う本を間違ったかな?」と思って本の作者を確認すると、確かに筒井康隆だった。

本の目次を見ると、驚愕。

第一章 悲しみのスペルマ
第二章 喜びのスペルマ
第三章 怒りのスペルマ
第四章 愉しきスペルマ
第五章 戦闘のスペルマ

目次全てに「スペルマ」って用語が。

カタカナで書かれていると、実は本気で何のことか数秒間分からなかったけれど、「スペルマの意味って精子だったかな」ということに気づいた。

最近、かなり物忘れが激しいので念のためiPhoneアプリの辞書でわざわざ調べて、意味が正しいことを確認した。

たぶん一般的な用語で、かつて記憶していたのは間違いないけれど、普段、そんなカタカナを使うことなどないから、本を開いてこの目次を最初に見た時は、「スペルマ」を「スペース」と読み間違えて気にしていなかったようだ。

素直に「精子」とか書いてくれていたら目次を見た時に、その後の話の展開を予想できたかもしれないのに、わざわざ難しい(?)用語の「スペルマ」を使っているのは、目次を見て買う人に、買うのを躊躇させる確率を下げる狙いや、私のように目次の意味を正しく理解しないまま読み進めた人に、後で目次を見た時にびっくりさせよう、という狙いがあるのかもしれない。

この目次には、びっくりしたが、筒井康隆らしさを感じられて「さすが!」と思って尊敬の念で目次を眺めた。

次に、買う時にはよく見なかった本の帯に書いてあることを読む。

《本の帯に書かれていた内容》
もう一人の「時をかける少女」の物語
文学界の巨人 ライトノベルの核融合
筒井康隆史上、最強の美少女!
いとうのいぢの挿絵もフルカラー完全収録

本の帯には卑猥さの欠片もないので、超絶美少女が可愛らしい男の子から精子を採取するという話が始まるなど、本の帯を見て買った人は分からなかったであろうから、話の展開にさぞかしびっくりしとことと思う。

性的な描写が、もしかしてメインなのかと思っていると、そんなことはなく、話は段々とSF的なものになり、本の帯にあるように、時間移動の話も出てくる。

あまりにも面白くて、小説の最初から最後まで一度の休憩も入れずに、読み終えてしまった。

かなり面白いから、『時をかける少女』のように映画化、アニメ化されるといいなあ。

特に、アニメ化されたら、是非見てみたい。

残念な点は一点のみ。

当初、本を読む前は、いとうのいぢの絵が可愛らしいし、筒井康隆だから話も面白いから小学5年生の本好きの我が娘に、今日自宅に戻った時にこの本を見せようかと思っていたけれど、ちょっと内容的に、見せられないな、と思うこと。

高校生ぐらいなら読んでもいいかもしれないけれど、小学5年生には早すぎる!

家の本棚の目立つところに置いていると、勝手に読まれるから、背の届かない奥まったところにでも隠しておくかな。

書店のポップに書いてあった言葉を思い出すと、角川文庫から筒井康隆の本が3カ月連続で毎月新刊が出るらしい。

第1弾が、この小説とのこと。

第2弾、第3弾も買わないといけないのではないかと思った。

なお、角川文庫版よりも前に「星海社FICTIONS」で単行本として出版されており、筒井康隆のあとがきも読めるようだ。


ビアンカ・オーバースタディ (星海社FICTIONS)

あとがきも読みたい人は、あとがきが書かれていない角川文庫版ではなく、星海社FICTIONSの単行本の方を買った方がよいと思う。

お金に余裕がある人は、表紙のいとうのいぢの絵が違うので、角川文庫、星海社FICTIONSの両方を買っても良いかもしれない。

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