広島港(桟橋)から乗車したタクシーに感心し、次からの乗車が楽しみなこと
一昨日、広島港から出張先のビルまでタクシーを利用した。
タクシーの運転手さんは、60歳を超えられていると思われる高齢の方。
私が行先を告げた後、行先の場所について出発前に1、2点ほど運転手さんから質問を受けた後は、運転手さんは無言で運転していた。
愛想が悪いというわけではなく、仕事に集中しているという様子。
運転手さんとの会話に気を配る必要がなく、目的地までの約20分間、車窓から流れゆく景色をぼんやりと眺めているだけでよいのは、忙しい仕事が続いていて疲弊していた私にとっては有り難かった。
信号待ちをしている時に、行先のビルが見えていることに気付いたので、私は運転手さんに言った。
「あのビルです」
「はい。あまり行ったことがない所だから、入口に近づいたら教えてください。通り過ぎてはいけませんので」
「分かりました」
信号が青になり、タクシーが進む。
ビルに入るための門が見えてくる。
「あの門から入ってください」
「分かりました」
門からビルが建つ敷地内に入る際に、これまで無言だった運転手さんが嬉しそうに私に話しかける。
「数年前に、桟橋からこちらまで、一度だけ、お客さんを連れてきたことがあるんです。滅多に来ない所ですが、行き方を覚えていたようです」
桟橋とは、広島港のことだろう。もしかしたら高齢の方に限定されるのかもしれないが、広島市の地元の一部の人は、広島港のことを桟橋と呼ぶのかもしれない。
広島港を桟橋と呼ぶ新鮮な表現にも関心を抱いたが、他にも関心事があった。
運転手さんのプロ意識が高い仕事ぶりにだ。
運転手さんが、過去のたった1回限りの仕事をきちんと記憶し、次からの仕事に活かし、効率よく、品質よく仕事を終えられた際に、純粋に喜んでいる様子を見て、プロだなぁ、と感心した。
高齢になっても、元気に仕事を続けられているのは、このようなプロ意識で、1つ1つの仕事に誇りと喜びを感じているからだろう。
などと思いながら、「そうですか」と、私は運転手さんの喜ぶ様子に親しみを込めて相槌を打つ。この時は何も思わなかった。
お金を支払って領収書をもらい、「ありがとうございました」とお礼を言ってタクシーから降りる。
何かが心に引っ掛かる。
ビルの玄関に向かう階段に登りながら、タクシーを見る。
タクシーは、Uターンをして門に向かおうとしていた。
領収書に書かれていたタクシー会社(個人タクシーのようだ)の名前に見覚えがあった。
数年前に、桟橋からあの運転手さんのタクシーに乗ったのは、私ではないだろうか。
といったことを運転手さんに話してみたい気になったが、わざわざそれを言うためだけに、階段を下りる労力を費やすのが面倒だったし、運転手さんに車を停めてもらうのも悪い気がしたので、階段の上から、タクシーが出ていく様子を眺めていた。
私は、このビルには毎月訪問している。
出張経路によって、タクシー、電車(+徒歩)、社用車と様々な交通手段を使っているが、そのうちの半分くらいはタクシーを使っている。
来月は、社用車になるかもしれないが、次か、その次はタクシーを使うことになるのではないか。
運転手さんには、また会うことがあるだろう。お互いに今の仕事を続けていれば、いつかはきっと。
出張から帰った後に、これまでに会社に提出した出張経費の精算書ファイル(Excelファイル)を私の使っているパソコン内で検索してみたところ、運転手さんのタクシー会社名が記載された清算書ファイルが1件ヒットした。
運転手さんの、数年前に1度だけ、の客は、やはり私だったようだ。
乗車したのは、2014年6月だったので、数年前ではなく8か月前のことだったようだ。
数年前ではなく、8か月前のことではないか、というのは細かいことで大事なことではない。
タクシーの運転手さんも私も、お互いの顔は覚えていなかったようだが、次回、同じ運転手さんのタクシーに乗った時、行き先を告げた時に、お互いに気付くだろうか。
その時がやってくるのが、少し待ち遠しい。(その時がやってきたら、このブログに追記をする予定。)