漫画『パン屋再襲撃 (HARUKI MURAKAMI 9 STORIES)』を読んだ感想

かなり昔に読んだ村上春樹の小説『パン屋再襲撃』が漫画化されたものが書店に置いてあることに気付いたので読んでみた。(先月・2017年6月に発売されたばかりのようである。)

絵はフランスのPMGL(Pierre-Marie Grille-Liou)という人が描いたもので、海外の人が描いたことがうなずける独特の画風で、不条理で退廃的な作品の雰囲気をよく表している。

小説『パン屋再襲撃』がどんな内容だったかはほとんど覚えていなかったので、漫画を読んでも小説のシーンと完全一致しているのかどうかは分からなかったけれど、読んでいくうちに「ああ、パン屋再襲撃はこんな話だったかもしれない。懐かしいなぁ」という気持ちになった。
内容は覚えていないけれど、雰囲気は覚えていたようだ。
それを漫画が思い出させてくれた。

この漫画に出てくる主人公の男と同様にくたびれた中年の男になってしまった私は、この男に親近感を覚えながら読んでいることに気付いた。
こんな感情は、小説『パン屋再襲撃』を読んだ20代の私にはなかった感情であろう。
読み手の年齢が変わると、作品から受ける印象というものは変わる、ということを実感した。

主人公の男とその妻が深夜に東京の街をドライブして襲撃するパン屋を探し回り、深夜に開いているパン屋が見つからなかったので24時間営業のマクドナルドを襲撃したシーンはよく描けていて臨場感たっぷりであった。

マクドナルドの店員から奪ったのは命でもお金でもなく、できたてのハンバーガー。
マクドナルドの店員をピストルで脅してハンバーガーを大量に作らせ、お金を払わずにハンバーガーを持ち帰るという犯罪。

男と妻の行動は明らかに犯罪であり、許されないことではあるが、嫌悪感を抱くことはなかった。
「男と妻は何故こんな行動を取るのだろう」という不条理感を考えさせられることで頭がいっぱいになってしまったからだ。
パン屋を襲撃する理由は、家にいる時に妻が男に言っていて、その理由は突飛なものではあったが納得感はあった。
しかし、考えるだけであれば良いが、実際に行動に移すとなると話は別だ。
パン屋を襲撃して犯罪者になって警察に追われるリスクとハンバーガーの代金数千円分を天秤にかけた場合、リスクに見合わない犯罪。
小説や漫画の人物達の理解できない行動を真剣に考えるのはナンセンスかもしれないけれど、考えざるをえない。
それは、この作品が面白いからだ。

このような不条理感は、村上春樹の作品ではよく感じること。
こういったことを感じさせてくれる本は、最近あまり読んでいなかったので、たまには読まないといけないと感じた。

パン屋の代わりにマクドナルドを襲撃した後、男がボートの上に乗っているシーンが唐突に描かれていて、「この流れはなんだ?分からないぞ?本当にボートに乗っていたのか?何らかの比喩表現で実際にはボートには乗っていないのか?」という疑問でモヤモヤした気持ちになった。

この最後のシーンは小説だとどうだったのだろう。
パン屋再襲撃の原作小説を久しぶりに読んでみたい気持ちになった。

今回読んだ漫画『パン屋再襲撃 (HARUKI MURAKAMI 9 STORIES)』の「9 STORIES」は「9つの話」という意味だが、この本の中に9つの話が入っているわけではなく、パン屋再襲撃の話だけが入っている。
残りの8つの話は、1話1冊ずつ後日発売されるようである。
残り8つの話の漫画も早く読みたい!


パン屋再襲撃 (HARUKI MURAKAMI 9 STORIES)



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