小説『ロボット・イン・ザ・ガーデン』を読んだ感想
小説『ロボット・イン・ザ・ガーデン』(原作:Deborah Install(デボラ インストール)、翻訳:松原葉子)を読んだ。
少し未来のイギリスを舞台とした小説で、ある日、主人公のベンが住む家の庭に、ロボットがやって来る。
ロボットの名前は、タング。
この名前の由来は小説のクライマックスに近づいてくると分かるし、さらに、原作者のあとがきを見ると、名前を付けた時のエピソードが書かれている。名前の由来を知ると、面白い、と思った。
このロボットは、四角形の箱を上下に積み重ねたようなデザインのいかにも古いタイプのロボットに見えるが、実は、人工知能は他の最新型のアンドロイド型ロボットよりも遥かに優れている。
ということに主人公やその周りの人達が気付くのはもっと後になってからで、それまではタングの素晴らしさに気づいているのは主人公のベンだけで、周りの人達はタングには興味を持つことができず、タングを主に見た目だけを見てバカにする。
この小説の世界では、ロボットは何か1つは仕事ができるはず、という設定があるが、タングには何もできそうになかったので、何もできないロボット=役立たず、という扱いになっていた。
主人公のベンは、両親の遺産で暮らす無職の中年男。
獣医師を目指していたが、獣医師にはなれないまま無職。
そんな彼には弁護士を職業としたとても優秀な妻がいるけれど、ロボットに夢中になる主人公に苛立ちを覚えた妻からは離婚を言い渡されてしまう。
この小説を読んでいる時、私はインフルエンザの熱が下がり、ようやく体力が戻り始めた頃ではあったが、体調が万全ではなかったので、土日という週末であっても、基本的には出張先で仮住まいしている東京のアパートの中で大人しくしていた。
インフルエンザが治ったとはいえ、病後に一人で部屋にいると、かなり孤独感を感じてしまい、主人公のベンが妻のエミリーから離婚を言い渡された時に、私も主人公と同じく妻に突然離婚を言い渡されるのではないか、と考え込んでしまった。
後日、自宅に帰宅して妻に会った時に、実際にはそんなことはないであろうということを確信し、とても安心したけれど、突然離婚を言い渡されるのではないか、などと考えてしまう私の弱さには、今となっては呆れてしまう。
とにかく、私の精神状況がこんな感じであったから、この小説を読んでいる時は主人公のベンに強く感情移入してしまい、ベンが感じる苦悩が強烈に私に伝わってきてしまって、ベンが感じる苦悩で私も苦悩することになってしまった。
ただし、苦悩だけではなく、ベンが感じる喜びも強く感じた。
ベンが愛情を注ぐロボットのタングがとても可愛らしく、ベンがタングから得られる幸せは、私にも強く伝わってきた。
主人公ベンが妻に離婚を言い渡された後、壊れかけているタングを修理してもらうために製造者を探して世界中を旅することになる。
人間の子供が少しずつ言葉を覚えて豊かな感情を言葉で伝えることが上手になるように、世界旅行をしながら、タングも言葉を少しずつ覚え、まるで本当に感情があるかのように振る舞い始める、
タングの喋る言葉、動きが可愛らしく、私の娘が2歳児ぐらいだった頃、タングのような話し方、感情表現があったなあ、ということを思い出した。
ベンがタングとの触れ合いで感じる幸せは、私にとっては娘の過去の思い出と重なって幸せを感じることになった。
タングが主人公からの問いかけやお願いなどについて何でもかんでも「やだ」と回答するようになったあたりは、まさに2歳児だと思った。
世界旅行の行き先には東京も含まれており、東京暮らしをしている身としては、この小説にはさらに親近感を抱いた。
小説はハッピーエンドで終わる。
小説の帯にタングロスなどと書かれていたので、タングが壊れてしまうのではないか、バッドエンドで終わるのではないか、と恐怖を抱きながら小説を読んだが、そんなことは全くなく、タングは可愛らしく、元気なまま小説は終わる。
タングロスとは小説を最後まで読み終えると、タングの可愛らしい新しい話をこれ以上は読めない、ということからくる喪失感のことを言いたかったのだろうけれど、紛らわしくて余計な心配を抱いて心にストレスがかかるから、小説の帯にはタングロスとは書いてほしくなかった。
ハッピーエンドで終わる小説は、ハッピーエンド好きの私としてはとても良かったが、妻のエミリーの行動は身勝手だなぁ、とは思った。
私は主人公のベンほどは優しくはないし、寛容でもないので、ベンが素晴らしすぎる、と感動してしまった。
離婚前からエミリーが他の男と寝ていることが分かる、つまり、不倫していた、というあたりを主人公のベンが許し、優しく迎え入れるあたりは、立派だし、他人の子供かもしれないのに、エミリーの新恋人が付き添えないから、という理由でベンが出産の時までエミリーに付き添ったり、他人の子供かもしれない、という段階でベンが自分の自宅にベビールームまで用意していたことについては、ベンが優しすぎる、と感じた。
妻のエミリーが結婚してくれたのは、そんなベンの優しさが良かったからなのであろう。
結局、妻のエミリーが産んだ子供はベンの子供だったということが分かったので本当にハッピーエンドになったけれど、これが新恋人の子供だったら、どうなったのだろうか。
それでも、ベンなら、一緒に暮らそう、と言うのではないかと思った。
夫と妻がお互いを尊重すること・助け合うこと、ロボットにも人権はあること(ロボットは人ではないがロボットを虐待してはならない、ロボットを人のように大切い扱い愛情を注ぐこと)、子供を育てるために夫婦が協力すること、諦めた夢を再度追い求めること、など色々と考えさせてくれる素晴らしい小説だった。