『出光佐三語録』を読んだ感想
『出光佐三語録』(著者:木本正次)を読んだ。
出光興産の創業者・出光佐三の語録というよりは、伝記本といったところであったが、大変興味深い内容であり、色々と考えさせられた。
出光興産となる前の会社・出光商会を作ることができたのは、返金不要の大金をポンとくれたパトロンがいてくれたことが大きいと感じた。
本人が稼いだお金だけを元手にしたのでは会社の立ち上げは難しかったのではないか。
パトロンがいなければ今の出光はなかったのではないか。
歴史の出来事を「もしも~だったら」と考えても、あまり意味はないのかもしれないけれど、考えずにはいられない。
ビジネスとは関係がない出会いをして、人付き合いを続けるうちに、特に頼んでもいないのに、やりたいことを実現するために大金をもらった、というのはよくあることなのかどうか分からないけれど、若い頃にあまりお金がない人が、後日、大成功を収める時にはよく聞く話でもある。
出光佐三という人は、人を惹きつけて信用を得る人間的な魅力に溢れていたのであろう。
本書を読んで、その魅力は、大きな相手にも臆することなく立ち向かう勇気、チャレンジ精神、勝気なところ、ブレることなく信念を貫く強い姿勢にあるのではないかと感じた。
学校の教科書で歴史を勉強中の中高生にとっても知っていると思われる満州鉄道で使う油を販売していた話については、当時の時代背景が分かりやすく書かれており、私が高校生の当時に本書を読みたかったと思った。
イギリスにタンカーを拿捕されることも厭わずに、イランから油を購入した日章丸事件という事件についてもよく分かった。
信念を貫き通すことがよく分かる話の1つだ。
出光佐三という人が社員を家族のように大切に扱い、満州で働いていた社員達を第二次世界大戦敗戦後にリストラするのではなく1人も首にしない宣言をした、といった例のように、社員をコストとみなすのではなく、人財とみなしていた、という話も興味深かった。
そのような考えを持っていることについては、良いことなのだろう。
細かい点で実際のところはどうだったのかは分からないにしても、少なくとも本書を読む限りでは、自ら宣言したことを守り、実現しているようであったから、凄い人だと思った。
多くの経営者が社員を人財ではなく、コストとみなしてしまうのは、人財と考えるのは理想論で、実際に経営をやってみると、理想通りにはいかないから、社員をコストとみなして会社の倒産を回避せざるをえない、ということなのだろうと思う。
世の多くの経営者が、社員を人財とみなすようになるには、世の多くの経営者が出光佐三と同等の経営能力があればいいのかもしれないけれど、それは難しいのであろうと思った。
簡単にできることであれば、多くの経営者が社員をコストとみなすのではなく、人財とみなせるはずだけれど、そうなっていないのは、簡単にできることではないからであろう。
私は経営者ではないので、社員をコストとみなす経営者には賛同できないけれど、社員をコストとみなす経営者も、本当は社員を人財と思いたいところだけれど、コストとみなして切り捨てる以外の良い方法を出光佐三のようには思いつかないので、仕方なくコストとしてみなしている、ということなのではないかと思った。
世の中の多くの経営者が無能だから、世の中の多くの経営者が社員をコストとみなしている、というよりは、社員を人財と考え、考えるだけでなく信念を貫き通すことができる超有能な経営者は希少、ということだろうと思った。
仮に私が経営者だったとしても、超有能な経営者であるとは限らない。
多くの経営者と同じく社員をコストとみなして会社を倒産させないようにすることで精一杯となるか、コストとみなす前に会社を倒産させてしまうのであろうと思った。
本書を読んでいると、成功者には自らの努力だけでなく、運も必要だと感じた。
出光佐三という人は、信念とひたむきな努力と人付き合いによって、運を自ら呼び寄せていたように思えた。
とても真似することはできそうにない凄い人だと思った。