アーサー・C・クラーク 『明日にとどく』

アーサー・C・クラークの50年以上前の短編集。
原題:REACH FOR TOMORROW
収録作品
序文
アーサー・C・クラーク自身が収録作品についての解説を行っている。1945年に執筆した「太陽系最後の日」が最高作品であると称されていることについては、「もしそれが本当なら、過去十年間、わたしはつねに下り坂にあったことになる。」というぼやきが大変面白い。
太陽系最後の日(原題:Rescue Party)
太陽が爆発して地球が消滅する前に人類を救うために地球に向かった異星人。太陽の爆発までに数時間しか残されていない。自らの生命を危険にさらしてまで人類を救いに地球に降り立ったのだが、そこには人間は一人もいなかった。人類はどこに行ったのか。・・・という謎解きと意外な結末が面白かった。
闇を行く(原題:A Walk in the Dark)
銀河系の辺境に位置する星は、星明りも期待できない漆黒の闇。その闇の中、宇宙港を目指して一人歩いていくことになった主人公は、この闇には怪物が潜んでいるという老人の話を思い出してしまう。怪物が何を食べて生きているのか・・・いや、怪物などこの星には存在しないなどと自問自答して恐怖と闘いながら歩いて行く様がリアルに描かれていた。
忘れられていた敵(原題:The Forgotten Enemy)
地球の気候が変わり、ロンドンは極寒の地になってしまった。人々はロンドンを去り、おそらく教授一人だけがロンドンでの生活を続けていた。放棄された商店から生活に必要な物資を調達できるので生活には困らないが、教授は救助されることを望んでいた。・・・教授のような生活がしたい、と思っている人は意外といるかもしれないなぁ、と思った(大学にはたくさん本があるだろうし)。
エラー(原題:Technical Error)
発電機の事故により、身体やあらゆるものの左右が逆転してしまう。この奇妙な現象は、当初、文字が逆転して見える、右手と左手が入れ替わった・・・というような問題しか見出せず、これらは時間をかければ慣れてしまって命には別状ないと思われた。しかし、逆転した人間が食料となる有機化合物を食べてもまったく栄養として吸収できないことが分かり、この被害者の生命を維持するには立体異性体の有機化合物を人工的に作る(ただし莫大な費用がかかる)か、発電機の事故を再現するかのどちらかしか方法がない。・・・立体異性体の話が大変分かりやすくて面白かった。
寄生虫(原題:The Parasite)
遥かな未来のどこかにいるオメガと呼ぶ生命体が人間に寄生し、人間の快楽などを共有していると主張するコナリイ。これに対し、それは精神異常による産物だとして何とか専門医に診せて友人を救おうとするピアスン。・・・この本がSF小説ということもあって結末はたぶんこうだろうと予想していた通りになってしまった。まぁ、それでも面白い。
地中の火(原題:The Fires Within)
地球の中心部に何があるかを調査する教授。・・・たしかに、地球の中心部、地球の核がどのようになっているかを映像として見ることができたら面白いと思し、見てみたい。とはいえ、そうすることでこの本のような意外な結末を迎えたくはないが。
目覚め(原題:Awakening)
何万年後もの未来の人類が地球上でどのような状況になっているかを見るために宇宙船で冬眠する主人公。・・・主人公がどうして永遠に目を閉じたのかが少し気になる。装置が故障していた⇒安全に復活できなかった、というのが原因ならまだ良いのだけれど。殺された、というのではないことを祈る。
親善使節(原題:Trouble With the Natives)
地球政府とファーストコンタクトをとるために地球に降り立った宇宙人2人。2人はBBC放送によって英語を学んで自身満々だったが、所詮変な英語を喋る怪しい外国人としか見なされなかった。ついには、精神異常者として警察に捕まってしまう。・・・このおっちょこちょいの2人が、とりあえず人間であることは疑われなかったというのが不思議だ。服装とかは変だったわりには、人間への変身は完璧だったようだから、どれぐらいの出来栄えだったのか見てみたいと思った。
呪い(原題:The Curse)
実は悔しいことに話がよく分からなかった。たぶん、墓の主は満足した結果になったのだろうけれど。
時の矢(原題:Time's Arrow)
過去を観る発明があったら、歴史好きにはたまらないだろう。この話も結末が予想できてしまったが、面白かった。
木星第五衛星(原題:Jupiter Five)
異性人の残した「宇宙船」の中にある遺産をめぐって起きる憎しみあいは、醜いものだと思った。また、たとえ理論上問題ないと分かっていたとしても、目的を達成するために一人の人間の生命を危険にさらすような行為は、やはり醜いと思った。
憑かれたもの(原題:The Possessed)
「群れ」として意志を共有する異星人が知性ある生き物に寄生するために宇宙をさまよい、ついに地球にたどり着く。・・・まったく思いもよらない結末にびっくりした。

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