『孤島の鬼』(江戸川乱歩)を読んだ感想


孤島の鬼

孤島の鬼』はAmazon Kindle Unlimitedの利用者は無料で読める本だったので読んでみた。

江戸川乱歩の作品は小学生の頃に子供向けの少年探偵団怪人二十面相のシリーズ小説をよく読んでいたが、大人向けの小説はひょっとしたら初めて読んだかもしれない。

『孤島の鬼』は1930年の作品なので、2018年現在からだと88年も前の作品となる。

小説前半の舞台は、東京。
池袋、新橋、銀座など現在も大都会の街が出てくる。
小説の文章で説明されている内容だけで想像すると、東京の街並みは今と昔では見た目こそ変わっていても、本質的にはあまり変わらないのかも、などと思いながら読んだ。

主人公(蓑浦金之助/みのうらきんのすけ)が働いているのは丸の内のビルディングのオフィス。
誰かと会話する時にはカフェに入る。
都内での移動に電車を使う。
電車通勤あり。
鎌倉の海に行くのに列車を使う。

小説の説明文だけだと、2018年現在の東京を舞台にして考えても、まったく問題ないようにさえ思えた。

もちろん、都市の見た目は今とは随分違うと思う。
ああ、昔の小説なんだ、と気づくのは、小説の文ではなくて、挿絵だった。
絵は古い時代をよく表している。
小説だけでも十分面白いが、挿絵が良い味を出している。

主人公の恋人の初代(はつよ)さんが殺され、恋人の死に悲嘆する主人公の描写には凄まじいものを感じた。

主人公が同性の諸戸道雄(もろとみちお)から恋愛感情を抱かれていること、諸戸が主人公と初代との仲を嫉妬して初代殺しの犯人は諸戸ではないかと疑うあたりなど、私も主人公の邪推を素直に信じて読み進めていった。

現代では差別用語として使用が禁止されている(または使用がためらわれる)用語、言い回しがたくさん出てくる。

片輪者/かたわ者、佝僂娘(せむしむすめ)など。

最近の小説では見かけない用語なので、佝僂の読み方が分からず、インターネットで調べた。
読み方と意味が分かると、衝撃的だったのは、「あれ?昔この漢字の読み方を知っていたような気がする。もしかして忘れてた?」という思いがこみ上げてきたことだ。

4月になると、私は41歳になる。
これからはもっと色々なことを忘れるであろう。
主人公が過去を振り返る形式で、この孤島の鬼の文章を書いていることには驚嘆に値する。
何でそんなにもいっぱい細かなところまで覚えているんだろう。

小説を最後まで読んでみると、非常に恐ろしい話が展開されていたのに、ハッピーエンドなのが意外で良かった。
私はハッピーエンドが好きだから、この小説の終わり方は良いな、と思った。

その他の江戸川乱歩作品も読みたくなる、とても面白い小説だった。

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